Kureha

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空に刻んだパラレログラム 感想

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空に刻んだパラレログラム 体験版 感想 - Kureha

 

私はスポーツ系の物語をあまり読みません。

物語の構造として、何かの困難を乗り越えた先の勝利でカタルシスを得る作品が殆どですが、私のような捻くれた人間は、こんなハッピーエンドにはあまり興味がないわけです。

私が求めるのは沢木耕太郎『一瞬の夏』 のような人生や生き方を描いた物語で、欲を言えば問題に対して足掻くけど、結果的には相応しい結末となり、そこから何かを得て希望に繋げるような物語だと直良いわけです。

 

このゲームのライターであるルクルさんは自己懲罰的な登場人物をはじめとする、欠点を持つ魅力的なキャラクターを用いて、安易なカタルシスに走らず、残酷なまでに丁寧にその欠点と向き合い、苦しませながら物語を描く印象があったので、私が望む物語を作ってくれると期待し、楽しみにしていました。

 

しかし、待っていたのは良くも悪くも王道的な展開。

弱点を持つヒロイン達が、弱点を克服したり、折り合いをつける部分も割りとあっさりとしていて、強敵たちを薙ぎ倒してのハッピーエンド。

 

ルクルさんの持ち味が一番出るであろう、ヒロインが持つ弱点の克服という部分も雑すぎます。

柚 (初心者) → 成長速度が速すぎて、足を引っ張る要素は殆ど無し

里亜 (身体の限界) → 限界を頑張って一時的に超える。後はメンバー交代

ほたる (精神的な要素) → 割と丁寧に書いていたが、割と流されてからのあっさり立ち直り

玻璃 (協調性無し、嫉妬) → 試合中に無事克服

 

1シーズン限りのトーナメントという設定だからという言い訳は通用しません。

甲子園のように春、夏の2シーズンにしたり、ダブルイリミネーション形式にしたり、

試合の合間にメンバー間で大きく衝突を起こすなどやり方はいくらでもあったはずです。

試合に対するモチベーションも適当すぎです。

特に勝ちを求めるために里亜を交代させておいて、最終的に楽しんでプレイすれば勝てるっていう思想が出てくるのは我慢なりません。

 

というか才能の要素を可視化するために、才能に依存度の高い新しいスポーツを組み立てておいて、努力と成長に見せかけた才能(柚、玻璃、ほたるの能力)でゲームに勝っていくって、物語的な工夫が殆ど無くないですか。

あえて才能が支配的なゲームにするなら、才能を持たない弱者の観点をシビアに描くべきで、そこをメインにするべきではないんですか?

 

努力デー楽しんデーという結末にするなら最初から競技性を高いスポーツを創造し、才能を努力や理詰めで上回りやすいゲーム性にすべきだったと思います。

空を飛びまわれるスポーツということで、ゲーム的な演出で魅せたいというわけでもなく、このスポーツじゃなきゃ駄目な所が無く、安易に類似のゲームに寄せたと勘繰ってしまいます。

 

この物語を通してルクルさん何を伝えたかったのか、何を表現したかったのかはまったく分からなかったです。

どこかで見たような小話を集めた、ちぐはぐな物語という印象を持ちました。

 

 

以下、想像していたストーリーを供養するために書いておきます。

 

役割 : 紅と主人公の関係性を逆転させる

 

主人公をダンスマカブルに導こうとするために、次第にテレプシコーラを楽しむためではなく、勝利するためにプレイするようになっていく。

才能を開花させるためのオーバートレーニングで体は壊れかけ、テレプシコーラを楽しめなくなっていく柚に対し、主人公は自分が居ては柚のためにならないと思い、恋人関係まで発展した柚に別れを告げ、姿を消す。

敗北し、勝利への妄執が消え、怪我はしなかったものの、空を飛ぶことをあきらめる。

ヒロインズや境先輩の後押しにより、かつて自分がテレプシコーラを楽しんでいたことを思い出し、再び飛ぶことを決意する、

3年。選手権監督となり、効率よく努力させた上で、新しい才能を開花させ、楽しんでプレイすることをモットーとしたコーチングでチームをダンス・マカブル優勝へ導く。

優勝会見で楽しんでプレイすることを思い出させてくれた主人公に語りかける。

 

※圧倒的才能でメンバーである、玻璃、里亜を超える必要がある。ここで、楽しさと勝利の比重を他のメンバーと乖離させる必要があるため、原作の玻璃の役目を変える必要有り。

主人公がいなくなるのは勿論ダンス・マカブル第二戦前。境先輩の初恋を抉る展開も面白そう。

 

 

 

里亜

役割 : 身体の限界への挑戦

 

才能を持つ二人を前に、努力以外のことを突き詰め完璧にこなすが、ゲームの穴となりチームは敗退。

責任感からゲームをプレイすることを諦める。既に恋人関係になった主人公はテレプシコーラの監督として熱心に活動しているため、関係が疎遠になっていく。引退していく才能のない水樹先輩の話などを聞き、才能だけが重要であるテレプシコーラに対して逆襲を誓う。

海外プロのオラクル容量が低いプレイヤーのところに行き、リミッターを外す飛び方を習得。

ラクル容量の問題をクリアーした完璧なプレイヤーとして3年のダンス・マカブルの決勝戦で古巣のEmpty Owlと対戦。

最後の決勝点を決めた段階で限界が来て、墜落。しかしその顔は満足げだった。

 

※主人公との恋愛は紅を意識した描写でギクシャクさせるとなお良い。Empty Owlの他のメンバーには空を入れ、こちらのチームにはあまり才能のない連中で固めるとなお良し。葵、悠未あたりか?

 

 

玻璃

役割 : 境先輩への逆襲を含めたスポーツで怪我をさせた加害者の心境

 

上の妄想文でいくと本来の玻璃の役割が柚に取られている。

妄想したのは境先輩への逆襲。本来の玻璃はリジェクトの強いプレイヤーではないが、高速(or 加速度)のリジェクトにより破壊力を持ったリジェクトを撃てるプレイヤーとしておく。(K = mv^2/2, F = maとかなんとか)

試合中、主人公を治すために勝ちを渇望していることと、主人公への選手生命を絶った恨みから故意に境先輩の脊髄目掛けてリジェクトを放ち、境先輩の選手生命を絶つ。

この時点で主人公との関係もぐちゃぐちゃに。

その後、境先輩はオラクル回路を負傷した妹の治療費を稼ぐためにプロを目指して活動していたことが明らかになる。境先輩は自身に生命保険を掛けており、自殺して妹の治療費を捻出しようとする。

優勝し、主人公ではなく妹を支援することで、贖罪をしようとする。境妹は境先輩が死んだショックから生きる理由を失っていたため、自分が殺した、私を殺したいなら試合中に殺してみろと煽りを入れる。

憎悪の力で境妹はプロになり、プロとして玻璃と合間見える。

試合中、渾身の力でリジェクトを狙う境妹より早く、自身に最速のリジェクトを打ち込み絶命する。

 

 

ほたる

役割 :周囲からの期待や比較などにおけるプレッシャー。中途半端な才能。

 

一番期待していた√。いろんな可能性で壊れそうな魅力的なキャラクター。

自己肯定感を求めて主人公に逃げ、蓮相手に本気の勝負することを避けた。

そのことが負い目となり、ますます自己肯定ができず自罰的な行動、言動が目立つようになっていく。主人公とも距離を置く。

圧倒的才能に打ち砕かれるなら、まだ救いがあったものの、蓮は世界では通用しなかった上に、オラクル回路を負傷してしまう。

帰国した蓮と合うボロボロのほたる。自分よりもほたるの現状を気にかける蓮を見て、自分がいかに甘えて蓮を言い訳にしていたかを思い知る。

蓮と世界で頭角を現していた主人公のバックアップを得て、テレプシコーラのプレイヤーとして復活する。

数年後、世界から世界一のプレイヤーとして賞賛されるほたる。記者からの質問で自分より優れていると思うプレイヤーを聞かれ、彼女は心から言った。「私の兄である常盤木蓮です」と。